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今月の一冊バックナンバー
R25「酒肴道場」
荻原和歌 著 (王様文庫)

首都圏で毎週60万部発行されているフリーペーパー「R25」。その人気連載が単行本になりました。1分でできるおつまみ、5分でできるおかずなど一手間かけるだけで、見事な料理に変身するレシピが109個掲載されています。
実は著者の荻原さんは鶴岡出身。ご本人にお会いしたことはありませんが、お父さんと弟さんは鶴岡で会社を経営されバリバリご活躍中。市内の某料理屋さんで偶然ご一緒した荻原さんのお父さんに本を頂きました。普段台所に立たない男性でも、「ちょっと作ってみようかな」と思わせるような簡単レシピです。
料理は手間でなく、アイデアなんだなあと目からウロコ。
「砂の女」
安部公房
 昭和37年に発表された安部公房の代表作品。
砂丘の村に新種の昆虫を探しに訪れた男性が、村人に一夜の宿を紹介するといわれ、深い砂の穴の底にある家を案内されます。家には寡婦が一人で住んでおり、家が埋まらないように砂を掻き出す仕事に追われています。翌日、穴から登るための縄梯子を外されたことを知った男は、自分が砂を掻き出すための男手として、穴底に閉じこめられたのだと気づきます。女と二人きりの生活をしながら、男は様々な工夫をして何とか脱出を試みるも失敗し、穴底の家で数ヶ月が過ぎてしまう・・・
そんなことなどあり得ないと誰しもが思う不条理の世界でありながら安部の描写は緻密でリアリティに徹しています。まるで自分が穴底に閉じこめられているような息苦しささえ感じます。穴底での単調な生活空間が舞台でありながら、心情描写を駆使して、読者を引き込む長編小説に仕上げる筆力はまさに天才的です。
「砂の女」の舞台となった砂丘の村は、酒田市の浜中地区であると安部公房自身が書いています。小説の中で「S駅」からバスに乗ったとありますが、これは酒田駅のイニシャルと思われます。今は防砂林に覆われ飛砂の被害もほとんどありませんが、昔は家の中に砂が入り込み、一夜にして砂の壁ができるなど、大変苦しめられました。砂と戦う主人公や村人の姿は私たちの先人そのものかもしれません。
「インテリジェンス 武器なき戦争」 手嶋龍一 佐藤優 幻冬舎新書

NHKワシントン局長を経て外交ジャーナリスト、作家として活動している手嶋龍一氏と、外務省起訴休職中の元在ロシア日本大使館員佐藤優氏が「インテリジェンス」について論じています。ここでいう「インテリジェンス」とは、国家の指導者の外交判断の指針となる重要な情報を指しています。外交機密情報というと、スパイの世界を想像しますが、佐藤氏は秘密情報の98%は公開情報の整理をすることで得られるとしています。
一例として、アメリカがイラク攻撃を仕掛けた理由のひとつであるアルカイダを率いるビンラディンとフセインがつながっているという見立てについては中東情勢を知っているものであれば二人が組む事などありえないことが、簡単にわかるはずだと指摘しています。
国際舞台で繰り広げられている情報戦のすさまじさや外交戦略を構築する際の情報の重要性、そうした情報戦を担う一線級の人材育成の必要性などが述べられており、国際政治に関心のある人にとっては興味深く読み進めることができます。
「大地の咆哮」元上海総領事が見た中国 杉本信行著 PHP研究所

中国における都市住民と農民との許容範囲を超えた貧富の差、深刻な水不足問題、反日運動の背景、危うい経済構造など現代中国が直面する問題と矛盾点を鋭い視点で抉り出しています。現代中国論として、直ちに中国語に翻訳され中国政府関係者の多くも読んだに違いありません。
杉本氏は駐中国日本大使館公使、その後上海領事館総領事を務めたいわゆる外務省「チャイナスクール」といわれる中国畑の専門家です。日中外交の最前線にいた自らの豊富な体験に基づき、中国の生の姿を客観的に読者に伝えています。とかく評判の悪いチャイナスクールですがここには決して共産党政府に迎合するのではなく、日本の国益をしっかりと主張しながら、良好な日中関係構築に腐心している外交官の姿があります。
私は杉本氏が公使として北京に駐在していた3年間と大部分時期が重なっており、仕事でもお世話になりました。末期ガンが発見されたため上海から帰国し、闘病生活の中で自らの使命としてこの本を上梓されました。
今、日中間に起きている諸問題を正確に理解するために多くの人に読んで欲しいと思います。
「コーチングの技術 上司と部下の人間学」
菅原裕子著
講談社現代新書 700円(税別)

早稲田ラグビーを復活させた清宮前監督や、マラソンの有森選手や高橋尚子選手を育てた小出監督は名コーチとして有名です。高橋尚子選手に対して「君ならできる!」と励まし続けたことは広く知られています。
一方的に相手に知識を教え込むのではなく、共に考え相手の可能性を引き出す方法として「コーチング」が注目されています。本書はコーチングが受け入れられる環境づくり、コーチングの技術、そして自分をコーチングするセルフコーチングについて具体的手法が説明されています。
「上司と部下」と副題がついているものの、親子、教師と生徒、友人同士などあらゆる人間関係に適用可能です。信頼を得る上司、教師、親とはコーチングを身に着けている人、学んだことがなくとも無意識に実行している人といえます。セルフコーチングは、自分で自分を信頼し前向きに物事に取り組むように自分をコーチングすることで、人をどんどん成長させる技術です。常にコーチングを意識しながら行動することで、人生は大きく違ったものになるに違いありません。
「武士道」
新渡戸稲造著
岩波書店
 この本を読むのは今回が3回目だ。
最初はJAL勤務時代、北京へ赴任するときである。北京への辞令がでてまもなく、当時の荒井北京支店長(現 JAL常務取締役)に電話をして赴任の挨拶をしたとき、「北京に来るまでの間に3冊の本を読んでくるように」といわれた。その3冊とは「論語」「代表的日本人(内村鑑三著)」そして「武士道」である。
「武士道」は新渡戸稲造が日本人精神の根幹を成す武士道を紹介することによって外国に広く日本を理解してもらうために英語で著したものだ。
義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義などの文字に表される精神を的確に描くことによって、日本人の姿を浮き彫りにし、当時大きな反響があったという。
1899年、新渡戸博士が37歳のときにこれだけの文章を英語で著したということは驚きだ。
海外で仕事をするにあたり日本人が誇るべき精神文化を再認識できたことは自分のスタンスを決める土台となったことは間違いない。他人に説明するためではない、自分と向き合うために、これからも時々読み直してみたい。
「小皇帝」の世代の中国 青樹明子 新潮新書

「小皇帝」とは、中国の一人っ子政策によって両親や祖父母に甘やかされて育った子供をさしていう言葉である。1979年頃から実施された一人っ子政策によって生まれたこどもはすでに1億人に達しているという。ほしいものは何でも手に入り、わがままも受け入れられてきた「小皇帝」がいま、大人になり社会に出ている。
彼らは江沢民政権で強化された反日愛国教育を受けてきた。時代はネット社会。「小皇帝」と「愛国」と「ネット」が結びついて、ここ数年の反日行動が生まれたと著者は分析している。去年4月に北京、上海、広州などで起こった反日デモはその典型例である。
今の中国では若者たちが政治、経済の主役だ。「小皇帝」世代をどう捉えるかが、今、そしてこれからの中国を知る上で大事なポイントとなるだろう。
「勝つ工場」 後藤康浩著 日本経済新聞社
 90年代後半から進んだ工場の中国移転。 「中国進出企業が勝ち残り、残留組はコスト競争に敗れる・・」
日本産業の空洞化に対する悲観論が大勢をしめ、中国進出か廃業かの二者択一を迫られた経営者も多くいました。
いまものづくりの日本回帰の動きが顕著になってきています。
亀山工場を立ち上げたシャープ、ノートパソコンの国内生産にこだわる富士通とパナソニックなど普段知ることのできない生産現場の取り組みと効率化の工夫が、詳しく描かれています。
世界をリードする大企業の工場最前線のレポートは製造業にかかわる人以外にも大変興味深い内容となっています。
著者の前作「強い工場」と共におすすめしたい一冊です。
「蒼穹の昴」 浅田次郎著

個性的な登場人物と、「宦官」「科挙」という清王朝の興味深い制度を柱に構成される小説自体の圧倒的な面白さに加え、北京勤務時代に私が実際に何十回と足を運んだ紫禁城内の建物、北京や天津の街並みが正確に描かれているため、実にリアルに風景を思い浮かべながら読むことができました。 |
| 佐藤聡 |
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